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京都地方裁判所 昭和58年(ワ)557号 判決 1985年12月26日

原告

京都市

右代表者京都市上下水道事業管理者

中田淳

右訴訟代理人弁護士

千保一広

被告

中川健造

右訴訟代理人弁護士

金井塚修

主文

一  被告は、原告に対し、金六、〇〇六万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和五八年六月三日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、右一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文一、二項と同旨、及び仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱宣言。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  京都国際文化観光都市建設計画都市計画事業上鳥羽南部地区土地区画整理事業施行区域内四五街区のうちで、北から中央にかけての八、七七八平方メートルの土地(別紙(一)図面記載の青線で囲む部分―以下「(イ)土地」という)は、右土地区画整理事業において、原告が昭和五四年二月二八日仮換地の指定を受けた土地(その従前地は、別紙(二)物件目録一記載のとおり)である。そして、右(イ)土地の南に接続する五〇一平方メートルの土地(別紙(一)図面記載の赤線で囲む部分―以下「(ロ)土地」という)(以下、(イ)、(ロ)の各土地を一括して「本件土地」という)は、訴外京都市土地開発公社に対する仮換地であつたが、原告は、昭和五六年一二月四日その従前地である別紙(二)物件目録二記載の各土地を買受け、これにより右仮換地の使用収益権を取得した。

(二)  そこで、原告は、本件土地を下水道事業用地に供し、鳥羽下水処理場に増設予定のポンプ場の敷地に当てている。

2(一)  ところが、被告は、訴外結城照臣と共謀して、本件土地を掘削し、土砂を搬出処分して利益を得るとともに、残土、産業廃棄物等の処理業者に、外部から残土、ガラ、産業廃棄物等を持ち込ませてこれを有償で受け入れ、右掘削部分を含む本件土地上に、これらの持ち込まれた残土等を投棄することを企て、昭和五七年三月四日ごろから翌四月五日までの間に、何らの権原もなく、原告職員による制止、あるいは制止札を無視して、本件土地にユンボ、ブルドーザー、ダンプカー等を持ち込んで、次の(1)及び(2)の行為をなした。

(1) (イ)土地のうちの南寄りの部分を、面積約二、三二〇平方メートル、深さ平均四・五メートルにわたり掘削して、その土砂約一万一、五〇〇立方メートルを本件土地外に搬出した。

(2) さらに、本件土地上に、約三万立方メートルの普通残土、産業廃棄物(建築廃材、ゴミ等)、コンクリート、アスファルトガラ混入残土を外部の業者を介して運び込み投棄した。

(二)  その結果、被告が掘削した部分が埋まつたのみならず、さらに掘削前の本件土地の地表面(以下「原地表面」という)にも投棄物が積み立てられ、その総量は、一万八、〇〇〇立方メートルを下らない。

3(一)  ポンプ場建設には、極めて良好な地盤を確保する必要があるので、前記投棄物は、原地表面上に積み立てられている分のみならず、原地表面下に埋め込まれている分も、すべて掘り出して外部に搬出処理しなければならないものである。

(二)  さらに、前記投棄物は本件土地の地盤に附合してこれと一体をなしており、また右投棄物に混入している産業廃棄物の処分は適正に行なう必要があるので、右投棄物の処理は原告自らの手で行うほかない。

4  被告の前記2記載の不法行為によつて、原告は、前記投棄物の掘削、積込、運搬、投棄にかかる純工事費及びこれに附帯して生ずる現場管理費、一般管理にかかる諸経費(以下これらを「搬出処分費」という)のすべての支出を余儀なくされている。

5  前記投棄物の合計土量一万九三五三・〇八立方メートルのうち、一万八、〇〇〇立方メートル分につき、これがすべて搬出処分費の安価な普通残土であると仮定した場合の搬出処分費は、別紙(四)計算書記載のとおり、金六、〇〇六万五、〇〇〇円を下らない。右金額は、被告の前記不法行為により原告が被むつた損害である。

6  よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右損害金六、〇〇六万五、〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後である本訴状送達の日の翌日の昭和五八年六月三日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実は否認する。

3  同3(一)の事実は不知、同3(二)は争う。

4  同4、5の事実は否認する。

被告は、原告に対し、その主張の投棄物を自らの手で搬出清掃する旨申し入れたが、原告はこれを拒否したので、原告の損害金額の算定は失当である。

5  同6は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一<証拠>によれば、請求原因1の事実が認められ、これに反する証拠はない。

二<証拠>を総合すれば、次の1及び2の各事実が認められ、被告本人尋問の結果中、この認定に反する部分は措信しえず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

1  被告は、結城照臣と共謀のうえ、本件土地の一部を無断で自己の事業に使用して利益を得ようと企て、昭和五七年三月四日ころから同年四月五日までの間に、原告職員の作業中止要求やその掲示の立入禁止の立札を無視し、ユンボ、ブルドーザー、ダンプカー等を搬入使用して、(イ)土地のほぼ中央から南より部分約二、三二〇平方メートルを約四・五メートルの深さに掘削し、その土砂約一万一、五〇〇立方メートルを搬出した上、本件土地上に、残土、コンクリート片、プラスチック片等(以下「本件投棄物」という)約三万一、八〇〇立方メートルを約四・五メートルの高さに投棄した。

2  被告が本件土地上に本件投棄物を投棄した土地の範囲は、(イ)土地のうち、暗渠部分(一、八六五平方メートル)を除いた六、九一三平方メートル、(ロ)土地のうち北側部分一一一平方メートルの合計七、〇二四平方メートルに及ぶものであつた。

三以上の認定事実によれば、被告は、故意に、前記判示のとおり原告が所有権、又は使用収益権を有する本件土地上に本件投棄物を投棄したものであるから、右投棄行為によつて原告が被つた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

別紙(一)

仮換地指定図の縮小図

四そこで、原告の右損害について以下検討する。

1  被告が本件土地の原地表面より高く積立てた本件投棄物の量について

(一)  <証拠>によれば、次の(1)ないし(3)の各事実が認められる。

(1) 土木工事における盛土又は切土の量の算定方法は、通常平均断面法により行うものであるが、その具体的な測定方法は、まず地形測量として、平面測量(平板測器を用いて野外で直接図紙上に測量すべき地形を測定して作図を行う)、縦断測量(測定すべき地形のほぼ中心に中心線を設け、この中心線上に、始点から終点までの間に地形に応じて適宜の数の測点を設定し、これらの測点における物体の高さを水準儀及び標尺によつて測定する)、横断測量(それぞれの測点において中心線に対し垂直な断面の形状を求める)の各測量をそれぞれ行い、これらの測量の後、その測定値に基づき、縦断面及びそれぞれの測点における横断面図を作成し、次に、その横断面の面積を三斜法又はプラニメーターで計測する。

(2) そこで、昭和五八年三月京都市都市計画洛南区画整理事務所は、右測定方法により、本件投棄物の量を測定した(以下「本件測量」という)。まず、本件土地の平面図に本件土地のほぼ中央を南北に走る線を設定し、本件土地の北端((イ)土地の北端に接する歩道の南端)を始点(No.0)とし、以下順次南へ中心線上に、地形の変化があれば特別に、そうでない限り原則として二〇メートル毎に各測点を設定した。(以下本件測量の際設定した測点をNo.1ないしNo.6と表示する)本件土地の南端は、No.6から八メートル南の測点(No.6+八メートルと表示する)であつた。次に、高度の測定については東京湾平均海水面からの高さ(以下「T・P」という)を示す測量法を用い、本件測量に当つては、(イ)土地の東側に沿つた川田川ボックスに接して、その東側を南北に走る道路の歩道の脇の地点で、建設省が設置した水準点(B・M)から測定してT・P一八メートルの地点を求め、これを仮水準点とし、この仮水準点に基づいて、水準儀と標尺を用いて各測点の高さを測定したところ、別紙(三)の本件投棄物の高度欄記載のとおりの各測点の高度の測量値となつた。また、各測点における横断面の面積は、三斜方式により測定し、その結果は、別紙(三)の断面積欄記載のとおりの測定値となつた。次に、原地表面のT・Pについては、昭和四四年に本件土地を含む上鳥羽南部地区土地区画整理事業区域内一帯の現況を測量し、さらに昭和四六年右一帯の補足現況測量を行い、各測点のT・Pを測定し、現況図を作成した。その後、右現況図の上に、街路綱の計画図(施工計画図)及び仮換地図を記入して仮換地重図(甲第一七号証)を作成した。右仮換地重図に示された本件土地の形状は、原告が本件土地に本件投棄物を搬入する直前までは、ほとんど変化がなかつた。本件測量において、中心線の位置、各測点の位置、本件投棄物の形状等の平面図を作成するに際し、右仮換地重図をそのまま利用している。本件測量の際設定した各測点の原地表面の状態は、No.1からNo.6までの区間は、全面にわたりほぼ水平であつて、仮換地重図に記載された土地の形状と同じであり、右仮換地重図には、No.3付近でT・P一四・一七メートル、No.4付近でT・P一四・一三メートル、であり、これらの測点、及びその他の仮換地重図上の各測点におけるT・Pを平均すると、ほぼT・P一四・一五メートルとなる。次に、No.1における原地表面は、その南に存する本件土地よりも約一メートル高く、東西に段差ができており、北へ向つてやや高く傾斜していることから、No.1のT・Pは約一五・一五メートル、No.0+一二メートルのT・Pは約一五・二〇メートル、No.0のT・Pは、約一五・二五メートルと推定された。

(3) 以上の各測定値に基づく、平均断面法による本件投棄物の原地表面上の量は、別紙(三)の本件投棄物の量欄記載のとおり、合計一万九、三五三・〇八立方メートルであつた。

本件土地のうち、(イ)土地上の本件投棄物の範囲は、前記測点No.0からNo.6までの範囲にあり、(ロ)土地上の本件投棄物の範囲は、No.6からNo.6+八メートルの範囲にある。

(二)  右認定事実によれば、本件土地上の本件投棄物の原地表面上の量は、一万八、〇〇〇立方メートルを下らないことが認められる。

なお、乙第六号証の一(堀内由弘昭和五八年六月二三日大阪高等検察庁に対して提出した上申書)の添付図面における(ロ)土地上に投棄された本件投棄物の範囲と本件測量の際作成した平面図(甲第一八号証)における(ロ)土地上に投棄された本件投棄物の範囲とは、若干異なり、後者の方が広く記載されているが、前記本件投棄物の量の測定結果はNo.6+八メートルまでの本件投棄物の量の測定結果であつて、右乙第六号証の一添付図面における本件投棄物の範囲と同一と認められるから、右本件投棄物の範囲の差異は、本件投棄物の量の測定結果に影響を与えない。

他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

2  損害額について

(一)  <証拠>によれば、原告は、本件土地を下水道事業用地に供し、鳥羽下水処理場に増設予定のポンプ場の敷地に当てているものであつて、右ポンプ場の建設には、良好な地盤を確保する必要があり、そのためには、被告が前記判示のとおり本件土地上に投棄した本件投棄物を、掘削、積込、運搬して外部に搬出処理する必要があること、原告は、通常、投棄物の搬出作業は外部の請負業者に委ねていることが認められ、右認定事実によれば、被告のなした前記不法行為に基づく損害は、右請負工事費(請負代金)をもつて算定するのが相当である。

(二)  <証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。すなわち、

原告が投棄物の掘削、積込、搬出等を外部の請負業者に委ねる場合、その請負代金の見積額の根拠は、建設省からの通達に従つているが、右通達によれば、請負工事費は、工事原価と一般管理費等から構成され、工事原価は、直接工事費と間接工事費とから構成され、後者は共通仮設費と現場管理費から構成されているものである。直接工事費と共通仮設費とを合せて純工事費というが、本件では、共通仮設費が認められないので、直接工事費が純工事費となる。本件の場合、直接工事費は、本件投棄物の掘削、積込工費、運搬工費、投棄料とから構成され、掘削積込費用は、バックホウ掘削積込法によるもので、一立方メートル当り、二一〇円であり、運搬費用は、一一トンダンプトラックにより、本件土地から通常一五キロメートル程の運搬が必要であり、一立方メートル当り一、七九〇円(大阪を標準とした値)である。投棄料は、大阪を標準とした場合、一立方メートル当り六〇〇円である。前記判示のとおり本件投棄物の量は、一万八、〇〇〇立方メートルを下らないものであるから、これらの費用の合計(純工事費)は、別紙(四)記載のとおり、四、六八〇万円となる。現場管理費は、純工事費に現場管理費率を乗じて積算し、現場管理費率は、(a、bは変数値で、a=2.0722561、b=−0.1218212、Nρは純工事費額)の算定式により積算するところ、その積算の結果、本件の現場管理率は、約一三・七四パーセントとなる。従つて、現場管理費は、六四三万三二〇円となる。一般管理費等は、工事原価(純工事費と現場管理費との合計)に一般管理費等率を乗じて算定し、本件の場合、一般管理費等率は、−2.2311105logCp+29.4661189(Cpは工事原価)の算定式により算定するところ、右算定式によれば、一般管理費等率は、約一二・二三パーセントとなるが、本件請負工事の場合、前払金の支払をしないため、右一般管理費等率を補正し、これに補正係数一・〇五を乗じ、その結果、右一般管理費等率は、一二・八四パーセントとなる。従つて、一般管理費等は、六八三万四七七三円となる。以上の各費用の合計額は、六、〇〇六万五、〇九三円となるものである。従つて、右六、〇〇六万五、〇九三円が被告のなした前記不法行為により原告が被つた損害額である。

(三)  ところで、被告は、本件投棄物を自らの手で搬出清掃することを原告に対し申し入れたところ原告はこれを拒否した旨主張し、被告もその本人尋問において、右主張にそう供述をしているが、仮に右事実が認められるとしても、被告が本件土地上に本件投棄物を搬入した時点で、右損害額は、前記判示のとおりの額で確定しているものというべきであるから、被告の右主張は、右損害の算定に影響を与える事由とは考えられない。

五以上の次第で、被告は原告に対し、右損害金六、〇〇六万五、〇〇〇円及びこれに対する前記不法行為の後の本件記録上明らかな本訴状送達日の翌日の昭和五八年六月三日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

六よつて原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、なお、仮執行免脱宣言を付するのは相当ではないので被告の右申立を却下し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山﨑末記 裁判官杉本順市 裁判官玉越義雄)

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